top of page
  • 執筆者の写真menow

夜光星


 博士の助手を務める僕に、ある日博士から電話がかかってきた。聞き取りにくい電子音の向こう側でもそのしわくちゃの頬に切れ目が入るほどに笑っていることがわかるほど嬉々とした様相が容易に想像できる電話であった。博士の電話曰く空を、雲の向こう側を飛べる船ができたとのことであるがあくまで研究助手として手を貸している僕にはよくわからない話だったのでとりあえず研究所に足を運ぶこととなった。

 研究所につき博士を呼ぶも返事はなく、ただ閑散としている我楽多が伽藍洞のような部屋に転がっているだけであった。

 進もうと足を上げた瞬間、中庭から博士の僕の呼ぶ声が聞こえた。

 とりあえず中庭に向かうとそこには船というには少し鋭利な線形をした物体が忽然と置かれていた。そしてその傍らに博士が立って僕を手招きで呼んだ。

 博士はこの大きな発明品が如何に凄いかを僕に熱弁してくれたが僕にはちっとも浪漫というものがわからなかった。

 そしてこの船の乗員として僕を指名してきたのである。博士が言うには空の向こうでは呼吸ができないがこの船の中なら安全であるらしく、食料なども一定期間暮らせる並みには乗せてくれるらしい。僕は子供のころから星々を眺めるのが好きで、いつか手元に落っこちてきてはくれないかと淡い期待さえしていたことを博士は知っていてそれを踏まえた上での提案だということは僕自身もわかった。僕は2の返事で乗ることを伝えた。

 そして明日、僕は昨晩も星が照れて隠れてしまうまで飽くことなく空を見上げていた。まさか自分があの星々のくっついている空に触れることができるなんて思いもしなかったからである。そんな僕の心中とは裏腹に船はゴオオという重低音を響かせながらさも当然のように宙に浮かんでは地面を離れていった。

 振り返ると先刻までいた僕の街が小さく小さく、次第に見えなくなってしまった。僕は船内で朝ごはんを食べた。

 しばらくすると僕は青く輝く美しい星を見つけた。その星は夜にだけキラキラと光って朝になると青く縁を光らせる僕の見たことのない美しい星であった。

 僕はその星を観察することにした。

 観察してしばらくすると昼であるにも関わらずどこかピカッと光った。夜にだけ光る星であると思ったのだが昼にも光る箇所があるらしい。

 他にも光った個所はいくつかあったが共通点は特にないように思えた。

 だんだんと光は激しく、多くなっていった。ピカッと光ってはシュウと萎む光がいくつも点々と表れては消えていた。初めは点々としていたその光も次第に増えていき、気が付いたら昼間は常に光が瞬いているようになった。

 さらにその光は大きく多く激しく光を発し昼を覆って光り始めた。

 綺麗だなあと僕はよくよく観察し目が焼けるほど網膜に感光させていた。

 僕は僕のいた街に帰った。

 その星は夜も光らなくなっていた。


閲覧数:11回0件のコメント

最新記事

すべて表示

お久しぶりです。

ブログの更新も久しく、現在再びゲームの製作を進めていますがそれとは別にこのページで私の制作した文学を掲載していきます。 気が向いたら短い小説を書いていきますのでよろしければ読んでください。

bottom of page